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よくある話だが、地下空洞に秘密基地を作っておいた。 とのたまった満面の笑みの志村。 頭のネジがとうとう吹っ飛んだのかと訝しがる暇もなく、うちの小さなローズピンクの冷蔵庫のドアを志村が開けて、私は強制的にその中に蹴りいれられた。目の前に迫った調味料や豆腐や納豆や大根や人参に、いやそれよりも中身を仕切っている棚に額を強打することを覚悟して強く目をつぶったまではなんの変哲もなかったのに。 いつまでたっても痛みがやってこないことに焦れて目を開けてみれば。 そこは全くの別世界だった。 赤茶けた空と草一本も生えていない湿った大地。 そして何より目を奪われたのは、何にもない世界にそびえ立つ、某アフリカ大陸に存在するような、三角形の建造物が三つ。 「こりゃあ派手に開発したもんだね」 横に並びながら沢井君が言う。 「なに、あれ?」 「ピラミッドに見えるねー」 「三つとも?」 「完璧なパクリだろうね。見た目は」 「パクリとは失礼な。遥かなる時を経た先人たちの偉業をちょっと真似してみただけだって」 へらりと笑う加藤。その横では皇帝さんがむぅと唸っている。 「ほぉ……。これが地球の最後の砦というわけか」 「名付けて、特務機関エルフ。どんな天使が襲ってきても撃退可能な設備を整えてある」 「大した自信じゃないか。だが、敵である私に手の内を見せるとはどういうことだ?」 「こちらにもこういう備えがあると知れば少しは本気で来ると思ってな。手加減されたのでは面白くないからだ」 「言うな、だが後悔することになるぞ?」 「どちらが?俺達に勝てると本気で思っているんじゃないだろうな?」 「………」 シリアスそうに会話をしていた志村と皇帝。志村が勝ち誇った方に笑み、一方の皇帝は押し黙った。 なんて緊張感。というか、自分達がまいた種とはいえ、本当に志村は地球を守る気があったのね!迂闊にもちょっぴり感動してしまったところで、突然皇帝が顔の前で手を合わせた。 「すまん!次の台詞なんだっけ?」 と。そして、皇帝に続いて志村が盛大にため息をついた。 「おいおい、いい加減にしろよ〜、あと一言でこのシーン終わりだったんだぞ?」 「ったく、やり直しかよー」 「また冷蔵庫のところからか。面倒だなぁ」 加藤と沢井君もやれやれと首を横に振っている。 状況が把握できていないのはどうやら私一人らしい。 「何?何の話?」 説明を求めて三人の間できょろきょろとしていたら、どこからともなく大声がした。 「カーーーーット!!」 その一声で、どこからともなくどやどやと人影がこちらに近づいてくる。 「なぜ最後の一言が出てこんのじゃーー!」 黄色いメガホンを持った妙に眉毛が自己主張する、今どき珍しい下駄をはいたおっさんが皇帝をどやしつけにやって来た。その横には、上半身裸のところにごちゃごちゃとバネみたいまものを巻きつけた男の子が何かの本を持って付いている。 「飛馬よ、このバカチンに台詞をたたき込んでやるのじゃあああああ」 「分かったよ、父ちゃん!」 少年は分厚い本の最初のほうのページをめくって皇帝に差し出し、ある部分を指差して熱く説明し始めた。 その横で、志村が本を覗き込んでぶつぶつと独り言を言い始めるし、加藤の方は髪型を直してくれていた青い服の女の子の手を握りしめてなにやら熱心に話をしていた。 女の子の困った様子からしてみれば、どうやら加藤は口説きにかかっているのは確かだった。 「いい加減にしてください!蟲笛を使いますよ!」 その後、ぱっちーんと勢いよく張り飛ばされて吹っ飛んで行った加藤。自業自得なので心の中でのみ合掌。 とりあえず、どこから突っ込んだものかと考えあぐねていると、やっぱり同じ本を手に持っていた沢井君と目があった。 「説明が必要だったりする?」 「当たり前よ。なんなの?ソレ」 「ああ、『萌えつきろ!熱戦!烈戦!超激戦!!』の話?」 「ちょっと待って、いきなり何の話よ」 「あー、僕もついさっき台本を渡されたんで全部は読んでないんだけど、とりあえず地球の存亡をかけた一大スペクタクルらしいよ?全宇宙に配信して大儲けするんだって」 ……、どこかで聞いたことがあるなと思うのは私の気のせい? 「ちなみに、エマちゃんの初登場シーンはこれから撮るらしいね」 「は?」 沢井君がページをぱらぱらとめくって、どこかで見覚えのある活字を私の視界に入れた。 「お兄ちゃんのバカ!」「これは、その・・・、そんなんじゃないからネッ!!」「あの、その、ご、ごめん、ね?」 うん、見たことあるわ、やっぱり。 「なんか、衣装も決まってるらしいし、パンとか食べるんだってねぇ」 にこにこと笑う沢井君。思わず殺意を覚えるけど、彼は悪くない…んだと思いたい。 彼の手から台本をひったくって、皇帝と意見を交わす志村の胸倉に手を伸ばした。 「なんだ?」 「なんだじゃないわよ、これは一体どういうことなの?ちゃんと説明してもらいましょうか」 「せっかくだから映画でも撮って大儲けしようかと」 さっきの沢井君の説明を鸚鵡返しする志村。 「それってどの時点で考えついたわけ?」 ずいと顔を近づけると、志村の目が泳ぎだした。 「えー・・・と、つい、さっき?」 「それにしては台本は綺麗に製本してあるわねぇ?それに、スタッフさんの顔にも見覚えがあるわよ?あの人たち、ソフトボールした人たちよねぇ?」 「な、なんのことかさっぱり・・・」 ますます挙動不審になる志村。 あとひと押しもすれば吐くなと踏んで、さらにたたみかけようと間合いを詰めようとしたら、なぜか急に体が宙に浮いた。志村の喉元を締めていた手もやんわりと外され、もちろん反対の手の台本は取り上げられた。 そうして、志村の真っ黒な髪ではなく、逆の明るい金髪が私の鼻先で揺れている。 「誰よ、あなた」 「アズナブルと自己紹介したはずだが?もう忘れたのか」 にっこりと笑う顔の造形は完璧で、耳元で囁かれた声は思いのほか甘やかで、一瞬、あの白いヘルメット野郎と目の前の人物が同じだというところまで考えが追い付かないでいた。 いやそれよりも、まず突っ込むべきはこのどうしようもなく近い距離のことじゃあないだろうか。 逃れようと身を捩る私にびくともせず、平然と腰に手を回したままの男。その肩越しに鬼のような形相の沢井君が見えた。 「いや、台本を読んでいたらだな、君とのキスシーンを見つけたのでね。ちょっと練習をしておこうと思って」 さらに顔が近くなる。このままじゃあ本当に!? ふわりと自分以外の人間の香りを強く感じた瞬間、怖くて目を閉じてしまった私の耳に、ごきゅっと、変な音が聞こえた。到底唇に唇が触れた音とは思えない、何かが折れるような音に驚いて片目をうっすらと開いてみる。 すると、そこにはものすごい至近距離で、いや、もっと正確にいえば私の鼻の先で、大惨事が起こっていた。 世の中の腐女子と呼ばれる皆さま方が「きゃー❤」と言っちゃいそうな、そんな、薔薇の花びらが舞っちゃうような、咲き乱れちゃうような、そんな大惨劇。 「…台本、書きなおしておく」 「ちっ…」 やっと離れた志村に激しく舌打ちをする皇帝。その手が緩んだところで沢井君に引っ張り出してもらった途端、激しく胃が悲鳴を上げるのを感じた。そして同時に鈍器で殴られたように痛む頭。 なんだかもう、死にそうなくらいのダメージなんですけど。 地球の前に私の方がヤバいってことに今更ながら気づいてしまいました。 |
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| 内 容 | ニックネーム/日時 |
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まあなんていうか、あははー…。 |
mui 2009/01/13 13:58 |
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